
white stone 白石
「ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人と栖(すみか)と、またかくのごとし」
僕は世間から降りている人間が大好きだ。相当大ざっぱな言い方だけど、世間のメインストリートと自身のそれに開きがある人のことをここで世間から降りている人と表現したい。例えば永井荷風、明恵上人、夏目漱石、マルセル・デュシャンなどなど文化人に偏るが、上げればキリがない。今日は平安末期の乱世に生き多彩な文化人でありながらも、とある事情で宮廷文化人サロンから追放され、孤独な隠遁生活をおくった鴨長明を紹介したいと思う。
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長明は好むと好まざるに関わらず、世を捨てるという身の処し方を余儀なくされるが、そうなってしまえばしまったで、今度はそれを楽しもうという、逆説発想転換に及ぶこととなる。そしてその生き様が、名作「方丈記」を生むこととなるのだ。かの有名な冒頭部分。
「ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人とすみかと、またかくのごとし」
ここには日本文化のエッセンス「もののあはれ」と仏教的な諦感が短い文章の中に見事に凝縮されている。長明は我が身の不幸をバネとして、ある種の悟りに至ったのだ。
長明は自分が生きていくためには、方丈(四畳半)の広さの仮小屋さえあればよい、「旅人の一夜の宿をつくり、老いたる蚕の繭を営むがごとし」と言う。心にかなわぬことがあれば、小屋をたたんで他の場所に移りゆく。財産があれば盗賊の難に遭うし、官禄があれば人がその地位を狙う。私にはもとより妻子もなければ何もない。「何に付けてか執(しふ)を留めん」という、なかなかにいさぎよい思い切りである。
(苔のむすまで time exposed 杉本博司著 より)

方丈記

方丈庵
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僕も常々いらぬ執着をせずこうありたいとは思うものの、改めて鴨長明という人間を想像しその人の成したことを想うと、こころ打たれるものがある。
話しは変わるが、先週末久しぶりに隣町松阪に遊んだ。駅前の最近出来た居酒屋とワインを飲ませる小さなお店を2軒ハシゴした。居酒屋は古民家を上手に改装した新感覚な空間で酒がやれて気に入ってもう数回赴いている。質実剛健な気質の松阪という町でこの手の店が生き残ることは簡単じゃないと思うが、ここのところ軌道に乗り繁盛してる様子。そして、2軒目のワインバーはいつもの友人夫婦に今回始めて連れて行ってもらった。これには少々驚いた、繁華街のちょいとはずれの冴えないスナック雑居ビルにあった。こういう場合はだいたい一か八か?これが、今回はアタリが出た。何てことないスナック空間をスッキリとモダンにマネーもそれほどかけずに美しくリノベーションされていた。女性店主の主張しすぎないセンスが見事に反映ということだ。これらのお店、何らかのランドマーク目当てにお客が行き来し活気ある通りとかでないのだ。営業も人知れず大変な部分もきっとあると思うが、そんなハンディの中地方都市松阪の一角でスッキリと営業を試みている。特に2軒目のワインバー、息巻いてガツガツやらず、やれるところまでしっかりとやって、無理が生じたらサッと閉店しちゃおう……くらいの潔さも感じることのできる店だ。ワインや葡萄や醸造の良し悪しなんてことが先に来る前に、もっと大人で大事な夜や地方都市の一時が宿る空間。「うたかた」な一軒、まさに消えゆく泡のごとしな長明的諦観を備えた目立たぬ名店と言いたい。
そして僕はここで並行して伊勢のことを思ってちょっと哀しくなった。今伊勢は来年の遷宮に向け外宮前の参道は出店ラッシュ……これ、僕には神宮参拝者の増加や賑わいの中、彼らの落とすマネーに踊るファンタジー(幻想)にしか見えないんだ。出店はひとやま当ててやろう感覚で、やる側の人間の信念やビジョンもとっても薄いところから始まってるから、見るべきところも無ければ宿ってるものも無いようなものが多い。先の松阪の2軒とのこのギャップ?……伊勢を愛してる分、粗にはついつい厳しくなるんだが、これはホンモノとニセモノじゃないか。
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今年は大変な年だったし、来年もそれに変わりはないだろう。いろんな物事の基準や判断が強く個人に問われてくる民族的危機な局面が続くと思う。ここをどう乗り切るか?人は変えられないし、心の通じる人々との属性の中でいいネットワークを築いてやっていくしか無いぞと考えている。
2011年特に印象に残った文章を引用したり。素敵さと苦言を記したり。不安と希望の入り交じる豊富を述べたりで終了します。
皆さん、よいお年を

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