2008/6/19

13歳の長編創作『或る日私は』  創作

〜母親の家に行くと、もう取り壊されるしかない廃家の、二階に古ぼけた小さな机があった。
引き出しを開けてみると、小さい頃の自分の創作日記が出てきた。
全く目の前に無い光景を目をつぶって書いている。
小学4年生の頃の遊びだったと思うが、原文のままここに載せてみる事にした!


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《13歳の長編創作》  『ある日私は』   某年8月15日作


私はひげを引っ張られて目が覚めた。
私の前には若いサラリーマンらしい男が、ソファーに深々と腰を掛けて、こちらを見ながら笑っている。
猫の一番大事なところを引っ張られて、少し腹がたったが主人の大事な客人らしいのでぐっと我慢することにした。

主人はお客を待たせて他の部屋で用事をしているらしい、顔が見当たらない。
この部屋は主人の書斎兼応接間となっている。
部屋の中央にはテーブルがひとつ、長いソファーがひとつ、小さいソファーが三つある。

私はその長いソファーでゆったりとしていたが、その客は大胆にも私専用のその長いソファーに断りも無く、並んで座っている。
いい度胸をしている客人だ。

客人が座っている、正面にはこの部屋のドアーが見える。
その右上にはクーラーが涼しい風を送り出している。
扉を挟んでその左には絵が掛けてある。

なにか魚のような絵だが、私はいままでこれが何の絵であるか判らない。
サバのようでもあるし、サンマのようでもある・・・
或いはこれが話しに聞いたくじらかも知れない。
とにかく、実物にかぶりついてみないと感じが判らない、へんてこな絵である。

客人が座っているソファーの後ろには主人の机がある。
この机はどうしたことか、足が三本しかない。
主人談によると、ハエを叩こうと思って角材を振り回していて、これに当たって折れたのだそうだ。
ハエを叩くのに角材がいるかと今でも不思議に思っているが、どうせ夫婦喧嘩でもして折ったものだと想像する。

その机の上には本が沢山並べてある。
これは横文字ばかりで我輩には読めない。
主人は英文学者である。

そして、机の上には花瓶が置いてあって、綺麗な花が生けてある。
初秋にしては美しい色だ、赤と黄色・・葉の緑が鮮やかだ・・・
どこかで見た配色? まぁ いいか!


その時、急に扉が開いて主人が入ってきた。
左手には新聞紙、右手には盆に載ったコーヒーが二つ。

私はまた夫婦喧嘩をしたなと直感した・・
ずぼらな主人が、コーヒーまで自分で持ってくるのは考えられん。

主人の服は、今まで寝ていたものが急に起こされて着替えたらしい、ワイシャツのボタンがひとつづつずれている。
客は意地の悪いことにこれを注意しようとしない。
このまま外に連れ出そうとするのだろうか。

主人は私の前のソファーにどっかと腰をおろしてタバコに火をつけた。
客は深々と腰掛けたままで、話を始めた。
話はいつしか文学論に展開していた。

『しかし、君、わしはモーパッサンだけは嫌いだ!』
『えっ なぜですか、私は大ファンですよ! なぜお嫌いなんですか・・』
『そこじゃよ 君!』

・・・と言いながら、主人は体を乗り出してきたが、まだタバコの灰が落ちない。
さっきから、まだかまだかと待っているのだが、なかなか今日に限って落ちない。
主人は話に夢中になるとタバコの灰を落とす癖がある。
こんなふうだから、この部屋のテーブルは一面こげだらけになっている。

私は、とうとうあきらめて窓の外を見た。
外には、何かしらの広葉樹が一本突っ立っている。
葉は風に揺られながら落ちている。
その落ち葉が三枚、窓の格子に引っかかったまま、今はもう朽ちてしまっている。

広葉樹の枝分かれした所で、とかげがちょろちょろと動いた。
私は、のそっと立ち上がって窓に飛び上がった。

後ろを振り返ってみると、テーブルの上にタバコの灰が二か所落ちている。
何を勘違いしたか、ハエが飛んできてその2つの灰の上に交互に飛んだり止まったりしている。

窓の外はさほど暑くない、といって室内も涼しくは無い。
なにしろ、窓を開けてクーラーを掛けているぐらいだから涼しくなるはずが無い。
そんな無駄遣いをするくらいなら、私の夕食にサンマのへそでも増やしてくれればいいのにと思っている。
窓に引っかかった落ち葉が朽ちてしまうくらいだから、この窓は夜になっても閉めないらしい。

また、とかげが樹の枝をちょろちょろと走った。
私は窓を飛び降りて外に出た。
文学論は益々激しくなっていく。
もう今頃は、タバコの灰が四つくらい落ちて、テーブルを焦がしている事だろう。

※夏目漱石の『我輩は猫である』を読んでいて・・・
 我輩も猫の気持ちになって世界を見てみたかった・・・



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