芥川龍之介の小編で「くもの糸」というお話をご存じでしょうか?お釈迦様が生前蜘蛛を一匹助けたことがある地獄にいる悪人の一人に極楽浄土からくもの糸をたらして救い上げようとするお話です。結局悪人はそのくもの糸に自分のあとからすがって登ってきた他の地獄の悪人たちを罵り手を離せと怒鳴ることで、自分のすがっていた糸をも切ってしまいます。
人の業の深さと御仏の衆生済度のこころを知らしめる深いお話です。
朝の散歩のときに河原の川べりの道を歩いていて、ふとアリンコを踏みそうになり、足をよけていたときに時々このお話を思い出します。小さな命も一つの命と思って無駄に殺したりしないように心掛けるこの気持ちは子供のころに読んだこのお話のせいかもしれません。
しかしこのお話は人の業の深さをこそ主題にしているように思います。自分が今いる立場や役割と言ったものを深く静かに考え続けることこそが人を人足らしめている心の在り様になるのですが、それが悪い方へ悪い方へ流れ続けているのが現代なのかもしれません。
しかし自然災害が襲ったあとに日本全国から数多くのボランティアの方達が駆けつけている姿を見ると人の業も明るい方へも流れているのかもしれないとも感じます。
自分の在り様というものを常に振り返り見直して生きて行く、そういう姿勢が何よりも人にとって大切なのかもしれません。

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