命をもって命を癒す

　日経新聞の最終ページにアイヌの子孫の方のコラムが載っていました。この方の曽祖父と言う方がアイヌとしては純粋な最後の方だったような感じらしくて、その方をこの筆者のお母様が「オジジ」と呼んでいたことが書いてあったのを目にしたとたんに自分自身にとって母方の祖父のこととその祖父母が住んでいたあばら家を思い出しました。

　子供のころに訪ねたその家は長い通り土間があって家の中はとても薄暗くて闇が暖かく支配していた旧家のような作りの貧しい家でした。天井も壁も竈の煤で真っ黒にすすけていて、そのせいで室内はとても暗くて裸電球が一つ、夜になると暗く点いたものです。

　あの温かさ、匂い、風がわずかに流れている畳の上の雰囲気、それは日本人が古くから生活してきた火と水と風の生活をほうふつとさせるものでした。

　アイヌの方達は日本に古くから元々住まわれていた原住の方達であり、平和を愛した穏やかな方達だったと思います。氣視の中にもよく出てこられてその魂の性質はよく見知っています。その方達を思う時に私の中の心的風景は子供の頃の祖父母の家と重なっていくように思うのです。

　NHKの特集番組で埴(はに)さんと言う植物写真家の方の取り組みを観させていただきました。家の庭にでもどこにでも生えているような小さな雑草たちの命のざわめきを写真に捉えるその取り組みはとても美しいものでした。

　小さな植物の種に仕組まれている奇跡のような繁殖のためのシステムは驚異としか言いようのないものでした。「誰が考えたのだろう？」埴さんはそうつぶやいておられましたが、きっとご自身では感じておられる部分はあるのだろうと思います。

　命の仕組みの不思議さは知れば知るほどセンスオブワンダーを感じさせるものです。雑草であっても究極の「美」や「仕組み」を備えているのですね。

　生きているもの全てが何かに生かされて、仕組まれているかのように巧妙に生き抜いていく意思を持たされて、光り輝いてあるのだと知ります。

　スーパーで買ってきた椎茸でさえも埴さんが背後から強いバックライトを当てると細かな胞子を大気中に放出している美しい姿が見えました。人はそういう命を日々取り込んで生きているのだなぁと思います。

　昨日の休日は長野県の戸隠神社へ再び、今度は家族を連れて行ってきました。金沢や富山あたりまではひどい豪雨で困ったなと思っていたのですが、新潟県に入ったあたりから晴れてきて、戸隠では一切雨は降らずに曇った天気でした。

　戸隠のあたりは標高が高いので気温も22度くらいで木陰が続く奥社への参道は涼しくて周り中からせせらぎの音や野鳥の鳴き声がして、本当に気持ちよく心も体も洗われたように感じました。

　本殿までの二キロの参道は後半になるにしたがって登りがきつくなり、家内は気息奄々としてへとへとになりつつ登って行きました。三連休の初日なので人も意外と多くおられて参拝するにも行列に並ばなくてはならず、戸隠神社の人気に驚かされました。

　娘は気が合わない神域に入ると気分が悪くなって機嫌が悪くなってしまうのですが、ここは気が合うらしく終始機嫌よく参拝を楽しんでいました。

　アメノタヂカラオノミコト様が祭神でありますが、この方は不動明王様とも相似形なのでとても親しみがあり、私の導神でもあられるサルタヒコノミコト様のお力もあって無事に参拝することが出来ました。
　一人で伺った前回ほどクリアに氣視が出来たわけではありませんでしたが、そこここにおられる木霊の方達の気配も感じられてありがたい参拝になりました。

　金沢ではお仏壇の立派なものが家庭内に普通にあることが多いです。我が家のお仏壇も両親が中古の者でしたが何十万か百万くらいもしたのか購入したものが鎮座しています。

　将来的には長男である私が引き継いでいくものなのですが、私の父は二男だったので自分で新しい仏壇を購入しなくてはならないわけだったようで、私の弟もやはり新しく自分用の立派なお仏壇を購入しました。

　不思議なもので仏壇の前に座ってお経を唱えていると心が落ち着きます。何がそこにあると言うわけではないのですが、何か心の声を受け止めてくれるものがそこに宿っているような気がします。

　父の命日等には菩提寺に当たるお寺さんのお坊様に来ていただいてお経を挙げてもらいます。昔々から北陸のあらゆる家庭で行われてきた行事。そしてほとんどの家庭にある立派なお仏壇。真宗王国と呼ばれた御国振りは今も残り続けているようです。

　辛いことがあった時は何か楽しいことを思い出して気持ちを紛らわそうとしますが、なかなかそう簡単には出来ることではありません。

　どうにも気が滅入って仕方がないと言う時が誰しもあるものです。うつに陥るような恐れは私のような楽天家は無いとは思っているのですが、それでも変にくそまじめなところもあるのでなかなか気分転換もしにくいものです。

　幼い命が失われると言う事態を目の前にすると無力感と、しかし人の魂の輪廻をも感じてどうすればいいのか戸惑うばかりです。詳しいことは書けないのですが、生まれいずるはずの命が失われるというのは悲しいことです。きっとまた別の形で出会う魂になるはずと信じるしかありません。