大橋仁さんのことについて書きます。
多くの方々が、様々な角度から語っている文章が
ネット上にたくさんあり、そのなかには
明らかな事実誤認に基づく記述もあったりするので
できるだけ、いろんな声を拾って検討すべきと思います。
大橋さん本人が、問題となっている「撮影方法」について
今のところ沈黙を続けていて、「ほんとうの」ところは
いまだはっきりしない状況ではありますが
もし、タイのセックスワーカーに突然カメラを向けて撮影した写真が
のちに本人の了解を得ることなく美術館に展示された、が事実であれば
こういう行為を僕は許したくないと思っています。
たとえば、こちらのインタビュー
http://www.tabroid.jp/news/2014/12/matsumoto4.html
では、大橋さん自身が
「撮影禁止であることが分かるように、カメラのイラストの上に大きく"ばってん"を記したシールがそこかしこに貼ってあるんだから。でも俺はそこにカメラを持ち込んでぱちぱち撮るわけ。しかも暗いからフラッシュたいちゃってね。もちろん、女の子はそれに気付くとパニック状態。しかも、何枚も何枚も撮り続けるから逃げ出しちゃうし」
と語っているように読めますが、実際の様子は分かりません。
じっくり考えようと思えば、ポイントはいくつもあって
まず、この撮影方法が良くないじゃないかという感覚が
一般的な人間には当たり前のように、あるかもしれません。
「芸術なら、なんでもアリか!」と怒る方もいらっしゃるでしょう。
芸術の話としてなら個人的意見としては、なんでもアリなんだろうと思うし
その表現衝動みたいなのは治らない病気だし、誰にも止められない
それこそ警察にも、国家にも、アーティストは屈しないと思う。
だから大橋さんに「やめろ」と言うのは意味を成さないでしょう。
これからも、タブーに触れ続けていく気がします。
それを、社会全体としては許していくのかどうかという問題。
大橋さんをよく知るミュージシャンが、大橋さんの人物像や作品への想いを根拠に、擁護する発言をしていたのだけれど
どんな人間性なのか、作品に熱意があるかないか、それは芸術の話。その話と別で。盗撮ではないのか、被写体は納得しているのか、インタビューの答え方が露悪的に過ぎやしないか。これは芸術の話ではなく、公序良俗の問題に関わる話。
芸術のために、誰かが盗撮されたりプライバシー侵害される社会には安心して暮らせないです。
どんな表現も少なからず暴力で、誰も傷付けないためには究極に黙る他ないわけですが。黙ってばかりもいられないとなると、どこかで許容範囲のラインをひかないといけなくて
写真を例にとってみると
街の風景の一部として人間が写り込む
現代、それすら厳しい時代かもしれませんが
エキストラくらいの存在感なら、さほど問題ないかもしれません。
けれど、もし裸を無断で撮影されたら問題になるでしょう。
セックスワーカーだからOKなんてことはありません。撮影のサービスは契約にないどころか、撮影禁止、なのですから。
性的なサービスの対価として金銭を受け取る意識はあっても「じろじろ見られるのはやだな」と思っているかもしれませんし、まさか撮影されて美術館で不特定多数の目に晒されるつもりなど、ないはずです。
タイ人を狙っているところが卑怯だ、という指摘もあります。
これがアメリカの店で起きた事件なら、とんでもない訴訟に発展しているでしょう。
タイなら問題にならないだろうという計算があったなら、これも侮辱的な話です。
日本人なら安心、というわけでもありません。
大橋仁さんがやらなくても、別の誰かが芸術と称して盗撮写真を公開するかもしれないのですし、その被写体はセックスワーカー以外になるかもしれない。
実際、芸術でなくとも盗撮という犯罪はあるわけで
その被害者たちは、こんな写真が展示されることで恐怖がフラッシュバックしてしまうし、また盗撮されるのではと不安になっている方もいらっしゃいます。
大橋仁さんは、少なくとも1人以上の女性の安心して暮らす権利を侵していて、これは芸術なんだからと擁護することもセカンドレイプだと感じます。
芸術も変態も存在します。
消すことは出来ないのだと思います。
せめて社会が、時には警察や国家が
取締り、裁かないことには平穏に暮らせません。
書いているうちに許さない気持ちが強く出過ぎました。
警察や国家が表現を取り締るなんて、最悪な状況です。
被写体となってしまった女性、また被写体となりうる人たちの人権を守ることと、芸術に内在する倫理の問題を分けて考えたかったのですが、やっぱり僕には人権が大切で、それを踏みにじるものはどんなに美しい芸術でもどんなに大義ある戦争も許さないと思います。
写真や音楽など、全ての芸術は
僕にとって必要なもので、きっと世界にとっても必要なんだと信じている。
けれど、それでも、泣いている女の子に大丈夫だよって言ってあげることのほうが、まだもう少し大切なんだよ。

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