届いたメールの件名に「もしもし」って書いてあったから
おやっ、と思って読んでみたら、内容はふつうだった。
メールだよね。電話じゃないよ。って思った。けど、べつに
注意せずにいたら、その人とは二度と会えなくなってしまった。
いつだって、取り返しのつかないことばかりだった。わっと泣く。もう、
こんな想いはしたくないって泣いて、いつも、くりかえしてばかりいる。
およそ七日ぶりに訪れたかのような日曜の午後だった。
午前中の事を、なにもかもすっかり覚えていなくって
それは私を少しだけ不安にさせるの。
そして不安のカタチさえ、すっかり覚えていられない。
ぱんをかじっていたことは確か
飲み物をくちにふくんでいたかは虚ろ
うつろ… うつろ…
♪うつろいやすい時間のなーかを
♪ぼくらは今日も泳ぐ、およーぐー
と。くちづさんで、まぶしい道を歩ってくと
すげえ狭い入口から忽ち「秘密庭の宴」へと吸い込まれちゃったので
冷たい麺を頂いた。ぴたぱんときっしゅも頂いた。雑なミックスジュースも
頂いた。素材のチョイスもミキサーの掛け方も、雑だった。
絶対にベストマッチではない組合せの素材を雑にミキサーにつっこみ
その辺に生えてる葉っぱも むしってミキサーにつっこみ、水を足すのだが
片手は手袋、片手は素手で、手袋の方の手でペットボトルを持って、まるで
素手の方の手を洗ってるとしか思えない動作で、ミキサーに水が注がれた。
ペットボトルとミキサーの仲介役としての素手は必要ですか?と訊いたら、
It's secret taste!(隠し味よ!いえろーもんきー!)くらい言われるっと
思って、だまっていた。結果、味の方も雑な仕上がりだったので、しかたなく
ひそひそと人種差別ギャグを口にして、にやにやしていた僕は
ひどく下品な動物であったか。無傷な他人たりえたか。
とても小さな音が聴こえた。
カタカナの苗字の誰かのギターで、そのあとテルミン、マトリョーミンだった。
そのあと、とても綺麗になった まいちゃんだった。綺麗だった。そのあと、
そのあと、もうぼくはいなかった。
ようちゃんを追いかけたり、日々喜くんのおとうとっぽい子を抱っこしたり、
トイレに並んだりしていたら、日々喜くんにトイレを覗かれて夕方になった。
“ぼくのいなくなった庭”では。なによりすてきなおんがくにまぎれて、
なによりすてきなごほうこくがあった。たくさんこどもがいたけれど、まだ
あたらしく人間ちゃんが産まれるんだよ!っていうような夢日記だった。
冗談だった。 冗談でも、くみちゃんのお腹がふくらむのだった。
ぼくは夜に聞いたので、夜は泣くための時間だけど、泣けた。うれしかった。
なにがうれしいんだか知れない。すてきだと思った。すてきなひとがすてきな
うたを唄うんだった。よーろっぱ!とか世界中で唄うんだった。それで、
しばらく待ってれば覚王山に帰ってくるんだった。今月はドイツだけど、
来月には、またきっと帰ってくるんだった。おかえり って、みんな言うんだ。
みんな笑顔か、挙動不審なんだ。彼らのまわりのひとたちは、なぜだかみんな
笑顔か挙動不審か、あるいは、仙人みたいにひょーひょーとしてるんだった。
みんな彼らに、似ている。12月ごろには、誰より彼らにそっくりな、ちっちゃい
人間ちゃんがやってくるんだ。「Earrivato Jaaja!」と言いながら、天と地を
指差して7歩だっけ、歩いてやってくる。みんな ようこそ っていうんだ。
あたりまえみたいに。 泣ける。
人を殺していても、ドラッグをキメていても、みんな笑顔で、きっと
そのこと忘れちゃってるんだ。 基本、そんなのダメなんだけど、基本、
そんなの忘れちゃってるんだ。 あたりまえみたいに。 泣ける。
その、ふにゃふにゃしちゃう発表の場に、ぼくはいなくて、鳥居みゆきを
見つめていた。ぼやける両眼で、白く光るそれを捕らえようとした。“それ”は
激しく吼えて、激しく躍動した。基本、ぼくは一個も笑わなかったかもしれない
そういう味わい方なら、した。
マラカスが吹っ飛ぶハプニングは珍しい。初めて見た。客席から幼女を誘拐するパターンは毎度だけれど、初めて生で見れた。どきどきした。笑いこそ しないものの。最後は、多毛症という名前の“くまじゃないもの”が、市民会館オーロラホールの高い天井を目指すかのごとく飛んでいった。「舞台を広く使っているな。」と思った。見当外れな感想だった。
中華料理屋で初対面の鳥居マニアの方と、鳥居さんに関わりの無い話ばかりを、した。
ある女の子は「憎しみとかキライという感情を詩にしています☆」と言ったし
ぼくは「好き。ということばかりを書いている気がする」と言ったし、男の子は
「日常らぶですよ。職場以外で、ひとと会話をしません☆」と言った。
けっこう遅くまで喋りまくって、別れを名残惜しみながら、また。と言い合った
本当に、また。と言える夜は宝石だった。
おわり。
さて、この話に出てこない琳くんは、じいじと遊んでたんだけど、ちらり風邪を
ひいて帰ってきたのだという。鼻水ずびずびの琳くんは、のどかわいて、お茶が
飲みたくって、冷蔵庫を自分で開けて、お茶を出してコップについで、飲んで、
お茶を冷蔵庫に戻して、コップも流し台に置いて、「お茶、つげた…。」と
言い残すと、さっさと布団にもぐったのだという。
こどもっていうのは、産まれたらいいし、おおきくなっちゃえばいいと思えた。
ちいさいままでいてほしい、だなんておぞましいことを思ったりしてたけれど
さみしいくらいに、ぼくとは関わりなく、生きていくだろう。さようなら。

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