森進一さんのトレード・マークともいうべきレパートリー「おふくろさん」が、改悪されてしまったとして、作詞家の川内康範さんが森進一さんにクレームをいれていますね。当事者同士はどういういきさつや感情を持っているかは分かりませんが、単純に著作権の管理という立場で検証してみましょう。
JASRACのデータベースを見ますと、この曲は川内康範作詞、猪俣公章作曲として渡辺音楽出版からJASRACに全ての範疇で著作権の使用料が、JASRACによって徴収されるように信託されています。
すべての範疇というのは、CDにプレスする際に発売レコード会社がJASRACに支払う録音使用料(複製使用料)、放送局、TV局が放送する際にJASRACに支払う演奏(放送)使用料など、楽譜、音楽配信、劇伴(TV番組の効果音楽)などを意味しています。
ということは使用料さえ支払えば、「おふくろさん」をCDに録音・発売したり、ステージで歌ったり、放送で流したり、着メロや着うた、カラオケで使用・利用してもOKということになります。
ただ今回の例では、作家から歌唱者(アーティスト)に権利侵害であるとの苦情、クレームがはいり、JASRACにも作家からしかるべく対応を依頼しているということです。
今回、森進一さんが「おふくろさん」を歌う活動をするにあたりJASRACに使用料を払わないというケースは皆無ですから、森さんは川内さんの著作権を侵害していることは皆無ということになります。
それでも川内さんが”歌ってもらいたくない”と主張する権利があるのは、著作者には著作権という財産権とは別に著作者人格権というものがあることによります。著作者人格権の中味としては同一性保持権、氏名表示件があります。ということはJASRACの範疇外の分野で問題が発生しているということです。JASRACが対処する問題ではありません。
『宮廷女官チャングムの誓い』の主題歌、「懐夫歌」が一時期、録音・ラジオ放送ができないことがありました。現在では問題は解決しており、使用しても良くなっていますが、当時、作家の信条に反する政党が選挙活動にこの曲をイメージ・ソングのように使用したため、作家が著作権信託を取り下げるという事態があったといいます。これは作家による著作者人格権の行使のためのひとつの手段ということです。
芸能ネタとしてメディアでも「おふくろさん」問題は取り上げられています。その中でTV朝日の番組でプロデューサー酒井政利さんがおっしゃられていた”作詞家と歌手というのは共同でひとつの絵画を描く間柄”という比愈は的を得ています。ピカソとマチスがふたりで絵を描いて、ある一定の社会的評価を得た後で、どちらか一方の画家が勝手にその作品に筆を入れることは考えられません。ありえないことです。

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