1.デイサービスで訪問の機能訓練
2020年3月、愛知県名古屋市緑区内にあるデイサービスで新型コロナウイルスの集団感染が起きました。デイサービスを利用していた利用者5人に感染が確認され、そのうちの1人が通っていた別のデイサービスでも8人の感染が明らかになりました。 この事態を受けて、名古屋市は緑区と南区のデイサービス126施設に2週間の休業を要請しました。兵庫県伊丹市のデイケア事業所では、11日までに6人の感染が確認され、このうちの1人の利用者の男性が10日、死亡しました。このほか千葉県市川市のデイサービスでも11日の時点で6人の感染が明らかになっています。全国でデイサービスなどのための外出を控える動きが広がっています。デイサービスの利用者は激減しており、これまでの半分ほどに減ったデイサービスも多く、「このままでは小さな事業所はやっていけなくなる」との声も上がっています。
現在、通所介護(地域密着型を含む)の年間費用は1兆7000億円(総合事業は含まない)です。昨年度のデイサービスの利用者数は220万人、総合事業を含むと約300万人が利用しています。新型コロナウイルスの影響で数十万人の要介護者がデイサービスを休んで自宅に居いることが予測されます。この状態が長引くと、廃用性症候群で機能が低下する高齢者が急増するのは明らかであります。
厚生労働省は、通所や短期入所型の施設で感染の拡大を防ぐため、自治体が必要と判断した場合は、感染者が確認された施設に限らず休業を要請できるとしていますが、一方で、施設が閉鎖されると十分な介護サービスを受けられなくなる高齢者が出てくるおそれもあります。このため厚生労働省は、介護保険最新情報にて、休業したり、受け入れを縮小したりした施設では、職員が代わりに利用者の自宅を訪問して介護サービスを行えるように通知しています。主な通知は以下です。
介護保険最新情報vol.770
「都道府県等からの休業の要請を受けて休業している場合における取扱いについて」(略)
2. 居宅で生活している利用者に対して、利用者からの連絡を受ける体制を整えた上で、居宅を訪問し、個別サービス計画の内容を踏まえ、できる限りのサービスを提供した場合
算定方法(通所系サービスの場合)提供したサービス時間の区分に対応した報酬区分(通所系サービスの報酬区分)を算定する。ただし、サービス提供時間が短時間(通所介護であれば2時間未満、通所リハであれば1時間未満)の場合は、それぞれのサービスの最短時間の報酬区分(通所介護であれば2時間以上3時間未満、通所リハであれば1時間以上2時間未満の報酬区分)で算定する。なお、当該利用者に通常提供しているサービスに対応し、1日に複数回の訪問を行い、サービスを提供する場合には、それぞれのサービス提供時間に応じた報酬区分を算定できるものとするが、1日に算定できる報酬は居宅サービス計画書に位置付けられた提供時間に相当する報酬を上限とし、その場合は、居宅介護サービス計画書に位置付けられた提供時間に対応した報酬区分で算定する。(略)
都道府県よりデイサービス休業の要請があった場合、デイサービススタッフが利用者の自宅に訪問して機能訓練等のサービスを提供したら、2時間以上3時間未満の報酬が算定できるという特別な制度です。しかし東京都などは要請がないので適用になっていません。
その後、すぐに出されたQ&Aが下記です。
介護保険最新情報 Vol 779
問1 令和2年2月24日付事務連絡「新型コロナウイルス感染症に係る介護サービス事業所の人員基準等の臨時的な取扱いについて(第2報)」で示された取扱いは、都道府県等からの休業の要請を受けて休業している場合に加えて、感染拡大防止の観点から介護サービス事業所(デイサービス等)が自主的に休業した場合も同様の取扱いを可能としているが、同じく感染拡大防止の観点から、利用者の希望に応じて、@通所サービスの事業所におけるサービス提供と、A当該通所サービスの事業所の職員による利用者の居宅への訪問によるサービス提供の両方を行うこととし、これら@Aのサービスを適宜組み合わせて実施する場合も、同様の取扱いが可能か。
(答)
可能である。
問2 問1の取扱いが可能である場合、事業所におけるサービス提供と居宅への訪問によるサービス提供を組み合わせて実施することにより、人員基準が満たされなくなる場合も考えられるが、そのような場合であっても、減算を適用しなくとも差し支えないか。
(答)
差し支えない。
問1は、デイサービスを営業している状態で、要望に応じて利用者宅に訪問してサービスを提供しても2時間以上3時間未満の報酬が算定できるという内容です。この場合、スタッフの職種やサービス時間は問われません。要支援が対象となる総合事業でも同様の扱いとなることを通知しています。ただし、サービス内容は、訪問介護との関連があるの、機能訓練や体操に限定されるでしょう。周知の通り、機能訓練ができる職種は、柔道整復師、鍼灸師、マッサージ師、PT、OTなどです。20分程度の訪問機能訓練でも2時間以上3時間未満の算定ができます。地域密着型通所介護(要介護1)の単位数は、298単なので東京の場合、加算無しでおおよそ3,300円になります。
2. 柔道整復師の訪問機能訓練が認められるには?
今は、柔道整復師の「療養費の受領委任」が認められた経緯に似ています。 昭和11年、柔道整復師に「療養費の受領委任」という形で健康保険の取扱いが認められました。しかし、成就するまでには先達諸兄の血の滲むような努力がありました。 関係資料を紐解くと、東京の江東柔道整復師会は昭和7 年ごろから「健康保険取扱い獲得運動」を大々的に始め、先駆的役割を果たしていました。その理由として、当時この地域は町工場地帯で工場労働者の患者さんが多く、工場協会から内務省へ「ぜひ、負傷した際、健康保険証で柔道整復師の施術が受けられるように取り計らっていただきたい…」との嘆願書を提出してもらい、それに合わせて猛運動を展開。 その内容として「被保険者が打撲、捻挫、脱臼、骨折を生じ、付近にて適当な保険医がなく、柔道整復師の施術によらなければならぬ場合があることを考慮し、その場合はなるべく被保険者が費用を負担することなく、負担しても僅少で済むようにしたいと考えまして、…」というものであり、柔道整復師の受領委任の取扱いについては、当初からあくまでも患者さんの利便性を重視しているものでありました。(日本柔道整復師会HP)
現在は国難と言える緊急事態です。自宅に閉じこもっている数十万人の要介護高齢者の訪問で機能訓練を行えるのは、街の開業柔道整復師しかいません。このままでは、一人暮らしなど多くの要介護高齢者は自宅に閉じこもってフレイル状態になります。利用者の要望に基づき、柔道整復師団体は、いまこそ「柔道整復師の訪問機能訓練」を組織的に全国的にアピールするべきであります。
この実績があれば、将来、接骨院の新しい療養費として加わることができるのでないかと考えています。

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