現在、「あマ師課程新設非認定取消裁判・大阪地裁」が行われています。いわゆる19条問題です。我が国の理療教育の根幹を成す大問題なのですが、意外にも一般の鍼灸師はほとんど関心がありません。知り合いのベテラン鍼灸師に聞いてみても「なにそれ?」という程度です。19条問題が50年間解決できないため、無資格違法マッサージや整体が日本中に蔓延ってしまい、真面目な鍼灸師の職域を奪っているのです。福祉的既得権益ばかりで、周りが見えない視覚障害者団体の対立が引き起こした最悪な結果であります。
今年の国家試験の合格発表は、あん摩マッサージ指圧師は、受験者1584名、合格者1315名、合格率83パーセント。はり師は、受験者4622名、合格者2667名、合格率57.7パーセント。きゅう師は、受験者4555名、合格者2845名、合格率62.5パーセントでした 点字毎日によると、新卒の受験者総数に占める視覚障害者の割合は、あん摩で20.8パーセント、はりが、5.6パーセント、きゅうが5.6パーセントとのことです。本来、三療として、あん摩マッサージ指圧師の国家試験を受けるべきであるが、19条により受験できないか一般鍼灸師は毎年約三千人になります。たった三百人の視覚障害者鍼灸師の職域を守るという根拠の乏しい理由で三千人の鍼灸師があん摩マッサージ指圧師を受験できないのです。実際に盲学校を卒業してあん摩マッサージ指圧師になる視覚障害者は激減していて、文京盲学校や八王子盲学校でもわずか数名です。彼らの雇用を守るために多くの鍼灸師があん摩マッサージ指圧師の受験ができない異常事態が50年も続いるのです。
下記は、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する19条の法律であります。
第十九条 当分の間、文部科学大臣又は厚生労働大臣は、あん摩マッサージ指圧師の総数のうちに視覚障害者以外の者が占める割合、あん摩マッサージ指圧師に係る学校又は養成施設において教育し、又は養成している生徒の総数のうちに視覚障害者以外の者が占める割合その他の事情を勘案して、視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の生計の維持が著しく困難とならないようにするため必要があると認めるときは、あん摩マッサージ指圧師に係る学校又は養成施設で視覚障害者以外の者を教育し、又は養成するものについての第二条第一項の認定又はその生徒の定員の増加についての同条第三項の承認をしないことができる。 文部科学大臣又は厚生労働大臣は、前項の規定により認定又は承認をしない処分をしようとするときは、あらかじめ、医道審議会の意見を聴かなければならない。
あん摩マッサージ指圧師養成校の新設申請を国が認めなかったのは「法人の職業選択の自由を制限し、違憲だ」として、学校法人「平成医療学園」(大阪市北区)が、国に不認定処分の取り消しを求める訴訟を大阪地裁に起こしました。2016年9月9日に同地裁(西田隆裕裁判長)で第1回口頭弁論が開かれ、国に請求棄却を求めました 訴状によると、学園は鍼灸師や柔道整復師などの養成校を複数運営。そのうちの2校について、健常者らを対象にしたあん摩師養成課程の新設を国に申請したところ、それぞれ2016年に退けられました。
昭和22年に制定されたあん摩師に関する法律19条は、免許取得にあたって、国が認定した養成施設での技能習得が必要と規定。同39年の改正では、視覚障害者のあん摩師の生計維持を図るため、健常者を対象にした養成校の新設を不承認にできると定めたものです。訴訟で学園側は、近年はあん摩師以外の職業に就く視覚障害者も増えているほか、無資格のマッサージが横行していると主張。視覚障害者の生計維持を目的とした法律の条文にはすでに合理的理由が存在せず、既存施設の既得権を守るためだけのものになっていると訴えていいます。学校側は訴訟で「障害者の雇用環境はかなり改善した。19条は学校設置者や障害のない人の職業選択の自由を制限している」と主張。養成先が増えないことで無資格業者が増え、逆に視覚障害者の生活困窮を招いているとも訴える方針です。
日盲連は「視覚障害マッサージ師の職域を守るためのお願い」の文書を以下に記します。
「平成医療学園グループは、晴眼者のためのあん摩マッサージ指圧師の養成課程の新設が認定されなかったことを不服として、2016年7月に、国を相手とする非認定処分取消訴訟を大阪、東京、仙台の各地方裁判所に提起しました。
あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律(以下、これを「あん摩師等法」といいます)19条1項は、「当分の間、国は、視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の生計の維持が困難とならないよう、あん摩師等の数、学生数などを考えて、あん摩師を養成する学校の新設や定員の増員認定等をしないことができる。」と規定しており、この規定によって視覚障害あん摩マッサージ指圧師(以下、これを「視覚障害あん摩師等」といいます)の職域が守られています。 これに対し、平成医療学園グループは、あん摩師等法19条は憲法違反であるとか、わが国においては視覚障がい者の職域が広がっており福祉制度も充実しているから、あん摩師等法19条は不必要になっているなどとして、晴眼者のためのあん摩師等の養成課程の新設は認められるべきだと主張しています。しかし、平成医療学園グループの主張は、憲法理論をご都合的にねじ曲げようとするものであり、事実にも反するものです。わが国においては、今日においても視覚障がい者の職域は極めて狭く、職業の中心は鍼灸マッサージです。もしも、平成医療学園グループの主張が認められ、あん摩師等法19条が廃止されたり、晴眼者のためのあん摩師等の養成課程の新増設が自由に認められれば、視覚障がい者はあん摩師等の職域からも閉め出される結果となります。以下略」。
裁判は、憲法22条の職業選択の自由をめぐる争点を中心に展開されています。平成医療学園グループは、自らの営業の自由と晴眼者のあん摩師になりたいという職業選択の自由を主張しています。これに対し、国は、営業の自由は視覚障害者の職業的自立を確保するという合理的な理由がある場合には制限できることや既に晴眼者のためのあん摩師の養成課程が全国に多数存在することなどを主張し、あん摩師等法19条は憲法違反ではないと反論しています。裁判は、来年には判決の言い渡しが想定されます。視覚障害者団体は「あん摩師等法19条連絡会」を結成して、断固戦う構えです。
視覚障害者団体は戦う相手を間違っています。鍼灸師が介護保険の機能訓練指導員になれなかった最大の理由は視覚障害者団体の反対運動があったからです。同じ鍼灸師なのになぜ共に協力できないのでしょうか?これからは地域共生社会の実現です。障害者も健常者も共に地域で助け合いながら生きていく時代です。鍼灸マ師業界は、無資格マッサージや接骨院の乱立により、すでに泥船状態です。いまここで19条を妥協しないと鍼灸マ業界は滅んでします。視覚障害者団体が不毛な戦いかしているうちに、鍼灸学校は次々と閉鎖されて、鍼灸師の若者は、この業界に絶望して離れていくのです。そして一番得をするのは、大手無資格マッサージやエステ業界なのです。
視覚障害者団体が大局にに立って判断することを願っています。

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