へんな夢を見た。
私は自宅の一階の居間のソファーで寝ている。だいぶ疲れているらしく、いびきをかいている。
壁の時計の針が、午前五時を示すころ、私は、眼をひらいて、ソファーから身を起こした。そして、
しゃぼん玉とんだ、
屋根まで飛んだ、
屋根まで飛んで、
壊れて消えた
何故だかそんな童謡を口ずさみながら、階段をのぼって行った。
二階は闇に満ちていた。
私は電気をつける。ぱっと明るくなり、その明かりが、部屋の片隅に落ちている二つの妙なものを照らし出した。
私は、ちらとそれを見る。人間の脚だ。床の上に転がっていたのは人間の左右の脚だった。
しかし私は、別に気にもとめる様子はなかった。
しゃぼん玉とんだ、
屋根まで飛んだ、
屋根まで飛んで、
壊れて消えた
またしても、そんな童歌をうたいながら階段を上がって行った。
三階も真っ暗。
さっきと同じように、明かりをつける。部屋の中央には、また肉片。けれど、こんどのは、ひとつ。しかも、かなり大きい。
私は、それに眼をむける。
人間の胴体。脚や、頭はくっついていなかったが、その胴体の両脇からは、二本の腕が、だらんと伸びていた。
私は、やはり、それには関心を示さなかった。
しゃぼん玉とんだ、
屋根まで飛んだ、
屋根まで飛んで、
壊れて消えた
そして、三階から屋上へと、のろのろと、這いあがっていった。
空には満月が浮かんでいた。
私は、屋上へ出ると、膝丈ほどの低い仕切りを跨いで、縁にたった。そして、首を前に突き出し、下を覗いた。
線路。
いまは明け方の五時で、始発にはまだ少し時間があるので、線路には電車の往来は無く、しんと静まり返っている。いうまでもなく、人はいない。ただ、野犬が一匹、寂しげに吠えていた。
私は、その遠く小さく見える野犬を見下ろしながら、ここから落ちたらひとたまりも無いだろうなぁ、と思った。そして、首を引っ込めると、顔をあげて、何気なく、月を仰ぎ見た。
青白い光りを発しながら夜に浮かぶ月、その下に、人間の生首が浮かんでいるのが眼に入った。おそらく何処かに強く叩きつけらたのだろう、その生首は頭部が、ぱっくり割れていて白い骨が露出しており、その大きく裂けた傷口からは、おびただしい量の血が溢れ出て、顔の隅々まで、赤黒く染めていた。
私は、その顔に見覚えがあった。間違いない。私の顔だ。いくら血まみれでも自分の顔ぐらい自分でよく分かる。
私は、私の生首に話しかけてみた。
「ここからか?」
自分でもどうしてそんな質問をしたのか、分からない。
生首は、うん、とひとつ頷いた。そして、
しゃぼん玉とんだ、
屋根から飛んだ、
屋根から飛んで、
壊れて消えた
と、しゃぼん玉の替え歌をうたって、霧消した。
私は、眼を軽くつぶって呼吸を整えた。そして、ためらうことなく、空中へと身を躍らせた。屋上から、飛び出した私の身体は、頭を下にして、あっという間に、線路の上に叩きつけられた。どん、っていう鈍い音と共に、八方に鮮血が飛び散った。べっとりと、血だらけの頭部を両手で抑えながら、無様にのた打ち回っている私の眼の中に、始発電車のヘッドライトの光りが飛び込んで来た。そして、その光りはあちこちに広がりながら弾丸のスピードでもって、ずんずんずんずん加速して向かって来る。もっと早く来い!頭が痛いくてかなわん!とっとと殺してくれ!バラバラしてくれ!と叫んだ時、私は、ちょうど夢から覚めた。
――これ、こないだ、ほんとうに見た夢――
おしまい
しょっちゅう、こんな夢を見るのだが、こういうのを、悪夢っていうのだろうか。
なんだか不吉。
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